時間(とき)を視(み)た

その辺境を一年に一度通りかかる太公望がいつもなんとなく腰かけて一つ撫でていく岩が、百年千年という時間が経つうちに段々丸みを帯びてゆき、とうとうまろやかにつるりとした輝きを放つようになってそれでも太公望は特に考えもせず時々は「おー随分つるつるになったのう」などと思いながら二度三度とごしごし擦ったりしている。
その岩はしかしつるりと光るようになっただけではなく、どんな運命のいたずらかなんだか茸っぽい形になっていたのである。要するに新種のなめこにもスカウトされそうな感じになっていた。
新種の岩なめこはそれでも変わらず一年に一度通りかかる太公望をそこで待っている。もう何千年あの方の手で撫でられ続けてきただろう。腰の感触や軽い重みを味わって来ただろう。最初は不思議な猫耳っぽい頭巾をかぶっていたのが段々耳が大きくなったかと思うと少し変わった黒い衣装になり、ここ数千年はごく普通のその時代の服だが、その白い手首や小柄な体躯、少しだけ哀しそうなあおい瞳も何も変わらない。やっぱり細い腰をその岩に預け、指先で一度撫でてゆく。なめこの傘の部分を無造作に愛撫してゆく。最近などはその瞬間恍惚として「くふくふっ……くっふううう!」などという雄たけびをあげそうになるのだが、そんなことをしたら多分驚いた彼は二度とここへはやってくるまい。年に一度あの方を全身で味わうことだけが自分の存在意義であり歓びであるのに……。
その年はおかしかった。毎年やってくる小柄な姿がいつになっても見えなかったのだ。渡り鳥たちはフェイスブックのことについて話していた。岩なめこは思いついた。自分に「いいね!」ボタンがあったらあの方はそこを集中的に撫でてくれるのではないだろうか。それは今までとは比べ物にならない物凄い快楽を自分に与えてくれるような気がした。あっ快楽って言っちゃった。
「いいね!」ボタンをどうやってつくろうか、岩なめこには心当たりもあった。毎年休息する人の体勢は決まっているので、そのお尻の当たる部位は何千年という間に少し盛り上がっていた。よしここだ。ここをどうにか変型させよう。やればできる。あの人が一年ぶりに自分に腰かけた時、何やら異物が当たるのを見つけた時の表情が楽しみだ。
彼はなんだかよくわからない功夫を積み、「いいね!」ボタンの親指の部分もきちんと上に当たるようにつくった。そして辺境に、久々の人影が現れた。
それは黒髪の小柄な少年ではなかった。
青い髪をした美貌の若者だった。
物腰は端整ながら鍛えられた武人の様子をしていて、
彼を見るなり悪しきものを見た時のような物凄い形相になった。

蓬莱島教主楊ゼンは妖精になりかけた岩なめこの「いいね!」ボタンに向かって、全力で三尖刀をヒットさせた。岩なめこは二度と復活できないよう七つに砕かれたが、しかし間髪入れずに繰り出された六魂幡からは必死でのがれ、そのまま世界中に散らばっていった。偶然からその岩なめこのかけらを手にした七人の男たちはやみがたい執念にとりつかれ、毎夜どこかあどけなさを残す見知らぬ少年のエロ椅子になっている夢を見ては劣情に身をよじるのである……。

「師叔、ただいま戻りました」
「お、どうした。辺境で見つけた岩からここんとこどうも仙気が感じられるから、ちょっと見てきてくれと言ったではないか」
「ああなんか割れてましたよ。天変地異じゃないですか」
「は?」
「それより、ねえ愛してます」
「ん、っ」
「もうどこにもいかないでくださいね」
「あ……」

「……どうしました、何か気になることでも?」
「いや、実は、その岩は割れてしまったなら仕方ないのだが、実は南の辺境にわしがいつも腰かけておった大木があってのう、それも最近何やら妙な感じで動くのだが……」
「………」



劫という概念について書こうと思っていたのに話がそれた上にもう飽きてきた。
拍手ありがとうございました!御挨拶遅くなって申し訳ありません。
以下お返事です。反転してどうぞ〜。
2月9日の方
ありがとうございます。もえは精神の再生可能エネルギーですからね!

雨流さま
わーご都合さえ会えば是非オフも参加していただきたかったです!
って、「うるる」さんだったんですか。
こちらこそすみません、勝手に「あまる」さんかと思い心の中でそうお呼びしてました…。うるるさん、可愛いひびきですね〜。
アンソロ楽しみですね〜。雨流さんの絵も早く拝見したいです。それではまた!
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