はつこい

先日行った声楽のコンサートの曲目に、「初恋」というタイトルがあった。
不勉強であの「まだあげそめし前髪の……」に曲がついているのかと思ったが、啄木のほうであった。
高名な日本のピアニストがこの短歌に曲をつけ、それが名曲として歌い継がれていることを私は知らなかった。

「砂山の 砂に腹這ひ初恋の いたみを遠くおもひ出づる日」



以前、この「初恋」をモチーフにして書かれた同タイトルの楊太の短編があって、これこそ私の心臓を空前絶後なまでにずたぼろにしてくれた傑作である。
私は他の方の二次創作作品についてあんまり公の場で触れないようにしているんだけど、これについてはもういいかなあと思う。もうわかる人しかわからないだろうし。
しかし私はこの話が自分にとってどのように特別であるか、いまだもってうまく説明することができない。もう十年以上経つのに。昔書き手の方に直接会えた時も、自分のこの感情を全然うまく言えなかった。過不足なく表すような言葉で伝えていたら、多分間違いなくドン引きされていたと思うのでそれはまあよかったと思うんですけど。というかそうじゃなくてもドン引きされてたかもしれない……申し訳ない……。

私は自分の楊太小説が好きだし、めちゃくちゃ読み返すし、それだってまあ自分が好きなものを好きなように書いてるんだから、しかも自己救済のために書いてるんだから当たり前だろうというぐらいの気持ちでおります。自萌えできるタイプです。自萌えだけだとさすがに厳しいけど、体感として燃費はいいんだよな。
でもこの話を読んだ直後はぶん殴られたみたいになって、その後わたしのつたない小説が恥ずかしくて恥ずかしくて、全部焼きたいぐらいになった。床に突っ伏して泣いた。
そして私はまだ、自分がいつでもそこに戻れることをコンサートの観客席で気がついた。

その書き手の方と会った時、声楽をやっているのだと仰っていたことを私は覚えていた。
それではもちろん、この曲は彼女の中にあったのだろう。あの夜明け前のいちめん蒼く染まった砂漠に、この音が響いていたのだろう。
それを知ることができて本当に良かった。
つめたい時雨が降り頻る日の、小さな町のホールだった。
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